CARROT CAKE

A story from the book
Beyond the Bass Clef by Tony Levin.

80年代のクリムゾンでは、「ちょっと休憩してキャロットケーキでもどうだ」っていうのがみんなの口癖になっていた。リハーサルや作曲中は、以前にやったことを繰り返さないで、なんとか新しいスタイルの演奏を創造しようと、極度に集中して作業していたので、頻繁に休憩をとることが精神衛生上必要だったのだ。 でもそれがキャロットケーキと繋がってしまうのは、ほぼ僕のせいなのだった。僕は常にずっと、デザートといえばキャロットケーキなのである。当時、僕はリハーサル現場の周辺を、まともな奴を売るケーキ屋を探して歩き回ったものだ。そうして、休憩のたびに、他のメンバーも一緒にケーキを味わったり、コーヒーを飲んだりした。中には散歩にいくメンバーもいた。

あれはアルバム「Discipline」を録音していた頃のこと。休憩の時間にシンガー兼ギタリストでソングライターでもあるAdrian Belewが散歩に出た。当時のスタジオはロンドンでもどっちかといえば危ない地域にあった。いまから思えば僕と一緒にキャロットケーキ探索に来れば良かったのだ。散歩中に浮かんだ歌詞のアイデアを録音しようと、テープレコーダーを持って出かけていったAdrianは、歩き始めて直ぐに地元の人間に話しかけられた。彼らはドラッグを欲しがっていた。それからカネも。Adrianはテープレコーダー以外は何も持っていなかった。「やばい場所だ・・・」彼らがかろうじて無傷で放してくれたので、Adrianもホッとしてこう囁いた。テープには彼らとの会話の一部も録音されていた。

それから今度はなんと警官が彼を呼び止めたのである。地元の連中にドラッグを売っていたのでは?それとも奴等からドラッグを買ったのか?それにそのテープレコーダーは何だ?彼らは次々に質問したが、この会話も録音されていった。Adeは最終的になんとか言い逃れてスタジオに戻ってきたが、こうして彼は、僕らがその時録音中だった「Thela Hun Ginjeet」の歌詞のアイデアのみならず、曲の後ろで流れる環境音まで手に入れてきたのだった。その間、僕はキャロットケーキを満喫していたのだったが。

80年代クリムゾンでのツアーを重ねながら、僕は徐々に各地の「いけてる」キャロットケーキのリストを僕のコンピューター(TRS Model 100って、今じゃ骨董品だ!)にファイルしていった。アメリカ中のいろんなところで、僕の友達の住む町で演奏する機会のある毎、彼らが僕を訪ねてくれて、それまでに聞き込んできた新しい場所を試してみたりした。でも僕ほど特定の様式にこだわっている奴は居なかった。キャロットケーキって言う奴にはちゃんとそれと認めるために厳しい基準があるのである。

何をおいてもまず、キャロットケーキの持つパラドックスを挙げなければならない。それはほとんどのデザートに共通の、濃厚かつ豊かな甘味を持ちながら、なおかつ健康的であるというオーラを放っている。ニンジンが入っている、というだけで(店によってはそれさえ守っていないところもあるが)なにか健康的なイメージを暗示しているじゃあないか。だから僕はキャロットケーキには漂白小麦粉や砂糖は入れすぎてはならない、と信じているのである。甘いフロスティングなど論外だ。当然サワークリーム・ベースのセミ・スイートの物でなくちゃあいけない。もしチョコレートなんぞがちょっとでも混じっていたら、誠に申し訳ないが、もうそれはキャロットケーキとは呼べないのである。それからまた、店によってはジンジャーブレッド風の粉を混ぜすぎるところもあるし、ナッツが多すぎる店も多い。レーズンはまあ許せるけれど、基本がしっかりしてれば入って無くても構わないのである。

今から思えば、当時のクリムゾンのリハーサルで最高だったのは、イリノイ州シャンペインのミュージック・ショップの奥の部屋でリハーサルや作曲をやった時だろう。どんなことからそこへ行くことになったかは、今はもう思い出せないが、とにかくファンがこのことに気付いて、一日中店の中をうろうろして買い物をする振りをしながら、壁越しに聞こえてくる僕らの新曲に耳を傾けていたりした。そこから道路を渡った向かい側に、Lox Stock and Bagelという店があって、素晴らしいキャロットケーキを作っていたのである。誰かが少しでもその話題に触れる度に、リハーサルは中断され、みんなで一日に何度もケーキを楽しんだのだった。イギリス訛りの者も混じって、毎日午後になると3度も4度もやってくるこのおかしな集団は、あの店の店主の目にはどんな風に映っていただろうか。

その後、この熱狂も徐々に冷め、メンバーの中には、僕には全く理解できないことだが、チョコレートケーキに浮気する者も居て、キャロットケーキへの忠誠を誓うのは僕だけになってしまった。僕は自宅で手製のレシピを探り続けて、遂に自分好みの味を極めるに至ったので、今は以前ほどにはツアーでめぼしい店を探すこともしなくなった。そうして、最終的にはコーヒーへの情熱が、僕からツアーで美味しいデザートを食べるという欲望を消し去ってしまったのである。90年代になると、僕はCafe Crim Valet Road Caseなるツアー用のエスプレッソマシンを用意して、リハーサル中でもうまいカプチーノやエスプレッソを飲めるようになり、もはや近所のケーキ屋へ行くために休憩をとることも無くなっているのだ。

しかし、実はあの探索が懐かしい。そして今も僕の家の天井裏のどこかに古ぼけたコンピュータが埃を被っていて眠っていて、その中にはケーキ屋の名前と住所、そしてサワークリーム・フロスティングやその他、それぞれのキャロットケーキの詳細なデータが保存されているはずである。

T-LEV CARROT CAKEの作り方

道具  

直径8インチのケーキパン(深さ2インチ)
 新品のギター弦一本(1弦か2弦がベストである)

材料  

Canola Oil 1カップ半
 白砂糖とブラウンシュガー、それぞれ1カップ
 卵4個
 漂白小麦粉と無漂白小麦粉、それぞれ2カップ
 ベーキングパウダー、小匙2杯
 塩、小匙1杯
 シナモン、大匙2杯
 おろしたニンジン、3カップ(約6本分)
 レーズン、4分の1カップ

フロスティング  

粉砂糖、3オンス
 マーガリン、2分の1本
 クリームチーズ、6オンス
 サワークリーム、一固まり

オーブンを350゜Fに温めておく。ニンジンをおろしておく。 大きなボウルでオイルと砂糖を混ぜ、卵を一つづつ入れてかき混ぜる。 別の容器に小麦粉、ベーキングパウダー、塩、シナモンを混ぜ合わせる。 これを静かに卵の入ったミックスに入れ、包み込むように混ぜる。 さらにニンジンとレーズンも混ぜる。 8インチのパンに油を塗り、小麦粉を振っておく。 上記のミックスを流し込み、350゜Fで一時間ほど焼く。 (楊子で中まで突き刺してみて、楊子になにもくっつかないようなら出来上がり)

ケーキを焼いている間にフロスティングを用意する。 クリームチーズ、マーガリン、粉砂糖、サワークリームを混ぜ合わせる。 蓋をして、使うまで冷蔵庫で冷やしておく。
ケーキが焼けたら、オーブンから出して5分ほど冷まし、その後ケーキをパンからはずす。 逆さまになった状態のまま、さらに冷めるまで待つ。
ケーキを2段に分けるには、ケーキの周囲にギターの弦を巡らせ、 両端を引っ張ってケーキを締め付けるようにして弦を食い込ませて 半分にスライスする。
別々にしておき、完全に冷めた状態で下の段のケーキにフロスティングを塗り、 上の段を重ね、その後、上の面と周囲にフロスティングを塗る。

オプション:もしギターの弦が無い場合、裁縫糸か釣り糸を使う。 (ペースの弦は太すぎて不可!)

オプション: もしくは、直径9インチの浅いパンを2つ用意し、 40分焼くことで、ギターの弦でのお楽しみを飛ばすことも出来る。 (以上、大人数分)

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