ローレンスこと大賀 賢一郎氏の
キング・クリムゾン
パリ公演レポート

June 25 , 2000

(Tony Levin Club of Japan 英国支部発)


さて、今回私は、24日の午後9時30分ヴィクトリア発のEurolinesというヨーロッパを網羅するコーチに乗り込みました。ドーヴァーについたのが、0時前。5月に上から見下ろしていた所で今回は待っているというのは不思議な感じでしたが、白い壁に見送られつつフェリーに乗り込みました。2時間ちょっとほどの航海中はフェリー内のラウンジでエスプレッソを嗜んだり、寝たりしておりました。カレーについた後コーチで4時間ほど走って、パリには朝の6時に到着。

帰国は26日の午後10時半発のコーチに乗って帰国です。帰りのコーチは、Channel Tunnelを利用するもので、コーチごと、列車の巨大な貨物車に押し込められ、馬の気持ちがよくわかる海峡横断でした。30分ほどですが。

というわけで、実質パリ滞在は2日間あったわけで、それなりに楽しんできました。
ノートルダム、マドレーヌ、モンマルトルのサクレ・クールといった諸教会・聖堂をはじめ、5つ中4つの凱旋門を見、最後の一個は遠くから眺め、有名な娼婦街を見学し、ルーヴル美術館ではラファエロ等の宗教画と、私の日本の大学時代の指導教だった絵画にも通じてらっしゃる英文学の老女性教授曰くの「ニヤニヤした年増のオバン」モナ・リザや、ナポレオン一世の戴冠の絵(彼自らジョゼフィーヌに王冠を授けているやつです)、ミロのヴィーナス像、Samothraceの有翼の勝利の女神像などの有名どころを楽しんでまいりました。

と、まぁ、フリップばりの長い前振りはここまでにして、まずセットリストです。

0. Tuning [Fripp solo :D]
1. Into the Flying Pan
2. TCOL
3. Heaven & Earth [?]
4. ProjeKction[? originally by P4]
5. ProzaKc Blues
6. Dinasour
7. One Time
8. SSEDD
9. TWMOSKFWM
10. FraKctured
11. Cage [Ade plays the acoustic guitar]
12. LTIA Part IV
13. Coda: I Have a Dream

Encore
14. Three of a Perfect Pair [Ade acoustic solo]
15. Deception of the Thrush [played by Fripp, Gunn, Mastelotto]

Encore 2
16. Vrooom

Encore 3
17. Heroes [ originally by David Bowie]

Fin.

[記憶とホテルの戻った直後のメモに基づいていますが、興奮していたので順番の
異同等、間違っている可能性があります]


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[ミュージシャン配置図]


             パット
                [エイドお休み処]
トレイ                    ロバート

            エイド

--以下オーディエンス-----------------

                          私@16列目の右端


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全体的な感想をいうと、もぉ、大盛り上がりでした。
インプロ的な部分は少ないといえば少ない今回のクリムゾンですが、それをプロジェクト的な楽曲で補っているような感じです。
アルバムではおとなしめだったパットのドラムも、ど迫力な上に見せ場も多く、オーディエンスの間でも評価がかなり上がったんではないでしょうか。

トレイに関しては、この人ホンマにうまいなぁ、という感じがしました。
特に、指の動きがすごい滑らかで、女性的な感じさえ漂ってきます。
彼のパートではやわらかいフレーズが随所に鏤められている為、今回のクリムゾンの柔の部分 (もしくは所謂 「叙情的」な部分、と言い換えてもいいかもしれませんが) は、曲全体として存在しているのではなく、トレイのパートの中の部分的なフレーズの中に存在を主張しているのではないか、という思いを強くしました。
アルバムではなかなか感じられない、視覚的な存在感が音楽に流入してくるのが不思議というか、面白いというか、ライヴの醍醐味なんでしょうか。


客層は老若男女に散らばっており、スーツ姿の人もいれば、くりむぞ関係の服を着ている人がいたり、夫婦やカップルできている人もいたり、さすがにハイティーンな女性はいませんでしたが、ひとり10歳ぐらいの娘さんと思しき女の子を連れてきているおっちゃんがいたり、なかなか興味深かかったです。

[前の列の席は30台ぐらいのフランス人のご夫婦でした。(話はしてませんけど)旦那はProjeKct Two: European TourのTシャツを着ていて、奥さんも多分なんか関係するTシャツだったように思います。]

ちなみに、この国では席が指定されているコンサートでは、ホール入り口にいるお姉さんに席まで案内してもらうのですが、案内してもらったときに何かフランス語で言っているので、何かいなぁ、と思ったら「チップいただけますか?」ということでした。思わず、失笑。普段田舎にいると忘れるチップの感覚....

また、ホールに入る前の通路のショップでツアー物を売っていまして、プログラムや各種Tシャツ(TCOLのは好評でした)、Projekct XのCDがありました。
キャッシュをもっていなくて、プログラムだけしか買いませんでしたが、これは、アルバムのブックレットを再編集したような感じ物のでした(笑)

ある客とマーチャントとの会話。
客: 「ProjeKct Xって最後のプロジェクトなのかい?」
マーチャント: 「さぁ、わからないね」

周りにいたみんな大受け。



0. Tuning
7時4〜50分ごろに、カフェでの一休みを切り上げて、オリンピアへ。
会場では、サウンドスケープス [のCDだかなんだか] が流れている...
開演は8時30分だったのですが、20分ごろになるとフリップがステージに現れ、チューニングを開始。
このころになると客もかなり入っていたものの、ちょっとは静まる。
大歓声と拍手喝采で向かえてオーディエンスを尻目に、興味なさそうに (ブロッキングしているのか) もくもくとチューニング。
Gate of Paradiseのようなフレーズを弾きつつ、さまざまなものをチューンしている。
30分ほど経過。
実はチューニングと称して、サウンドスケープスのCDをレコーディングしてんちゃうやろなぁ、と言う冗談を思いついたが、いいかげん、みんないらいらしている模様。

8時50分ごろ、突如2階席から、「早くはじめろ」というような感じで、アンコールを求めるときのような拍手が巻き起こる。
下にも普及して、拍手が巨大になった、ちょうどそのとき、フリップが席を立って幕間に引っ込む。

「性急な客に、ぶちぎれて、やめる! って事になったんちゃうやろなぁ」と本気で不安になる私。
サウンドスケープスとかが好きな私は拍手してないのに。

10分ほど、沈黙が続く。ローディがペットボトルの水を運んだり、ギターなんかをいじったりするためにステージに上がったのを、誰かが勘違いして拍手をしてしまい、それに乗せられた観客も拍手してしまう、という場面も。
しばらくして、またもや拍手が巻き起こるが、ようやくアナウンスが5分ほどで開演であると告げる。続いて、例の「写真、レコーディング等の違法行為があると、演奏を中止することがあります」というアナウンスが英仏語で流れ、みんな失笑。

5分ほどして、キング・クリムゾン登場。


1. Into the Flying Pan
出だしのパットのドラムで、結構、アルバムより良く感じてしまうから不思議。
ツアーのオープニング曲には結構いいかもしれません。
ブリューの声がいつもと違うような感じだったので、ツアーで声がかれたのかと思いましたが、体調が悪かったんですね。歌いにくい歌なので、必死に声を出していました。


2. TCOL
アルバムでは結構、カクッカクッとした感じもしないことも無かったのですが、さすがにライヴになると、こういうフレーズがより生きてくるように感じました。
前半トレイの指使いはすごく滑らかで、それが余計に曲に生気を与えているかのようでした。
トレイは後半の歌部分で、弾くパートが少なくなると、パットの横にいって、2、3話していました(弾きながら)。弾きまくるパートになったら前に出て、手数の少ないパートではパットの横、という感じが曲中続きました。モニターか何かトラ
ぶったのかな、と思ったのですが、その前に機材が置いてあったことや、パットと見つめあいつつ弾いていたので、トラブルということではなかったのかもしれません。(音からは、私は判断できないし)

ブリューはそれなりに陽気に歌っていたのですが、声の状態と、頭髪が微妙に残っている(なんかフットボールの日本代表監督も努めたファルカンみたいな感じの頭)うえ、バックからライトが当たって、髪が透けて見えるため、いつもの陽気さとは違って、別のペルソナを演じている、というような印象をこの曲中は受けました。


3. Heaven & Earth
Heaven & Earthだと思いますが、良くわかりません。TCOL収録版の前半と後半を逆にしたような感じです。ドラムンベース的な打ち込みで始まったので、P3かP4の曲(Ghost)なのかなぁ、とも思いましたが...
前半の終わり、つまりアルバムでは曲の終わりにある、ドラムが単発で鳴って終わりそうになって、1、2発、ダ、ダンと鳴って、後半になり、フリップのふぁーーんというフレーズになるという感じです。(素人な表現ですが、わかりますか?)

前半でも、しばしばパットの横 (TCOL時にトレイがいた場所) で弾いたりしていたブリューですが、後半になると弾くフレーズがなくなってしまったのか、ギターのケーブルを変えたり、エイドお休み処の椅子に座って顔を拭いたり水を飲んだ
り、休んだり。フリップとパットがアイコンタクトをするのにも、間にエイドがいて邪魔だから背をのけぞらせて、コンタクトを取る場面もあったりして、ほほえましいクリムゾンの光景。


4. ProjeKction
これは、[曲順はともかく曲は] まず間違いないと思います。Intruder的なドラムで始まりましたから。
ProjeKct Fourの曲なのに、ブリューが参加しているのは、変な感じもしますが。
なかなかに良かったです。やはりドラムが効果的。


5. ProzaKc Blues
曲順はちょっと自信が無いですがが、多分ここで良いような気がします。
ブリューはちゃんと声色を変えて歌っていました。
各スタンザの最後のフレーズ... "you know" とか... を客とあわせて歌ったりして、なかなかに盛り上がりました。


6. Dinasour
ブリューのメロトロン的なフレーズはちょっと綺麗ではなかったですが、オーディエンスにも人気があるのか、最初の音が鳴っただけで、大いに喝采です。
中間のセクションが無かったのと、基本的にこの曲はダブル・トリオの音のずれが、面白い曲だと思うので、その辺がちょっと残念。
ちょっと、ブリューも、声が出にくいのか、歌いづらそうな感じでした。


7. One Time
歌の出だしでブリューが詰まった(というか歌い間違えたのか)のですが、音楽自体は、One Timeの曲ではあっても、結構好きに弾いている感じがしました。特にトレイの中間部。


8. SSEDD
この曲も結構人気がありますね。
声を張り上げる所がつらそうなブリューではありましたが、いつもの陽気さで歌っていました。
トニーがいないのが、曲として残念なのは仕方ないですが。


9. TWMOSKFWM
逆にこの曲は、ちょっとオーディエンスの盛り上がりにはいまいち欠けました。
人気が無い、というより、まだ聞き手がピンときていない感じ。
中間部のフリップのギターと共にパットのドラムがクロースアップされる所では、喝采が巻き起こってました。

フリップのピアノ音セクションはさすがに生で見ると、すごい、の一言に尽きます。体を前後に揺らして、一心不乱に弾きまくっておられました。

当然、ブリューが一人で歌っているわけですが、Get set get wet...のところも、一人なので、ちょっと勿体無かったですね。アルバムだと、ダブルトラックで声が入ってますが、ライヴでもトレイがコーラスすれば、より引き締まったような気がするんですが。


10. FraKctured
さすがにみんなこれを待っているのか、始まると共にすごい歓声が巻き起こります。
実はブリューの弾くパートが意外に少ないので、フリップのリフになると、お休みどころに引っ込み、リフ後の穏やかな調子に一瞬成る所になると出てきて前に出て弾き、リフに戻るとまた引っ込む、というのを繰り返します。
2回目にお休みどころに戻るときは、「さぁ、どうぞ」というような感じに、フリップのほうに (紹介するときのように) 手を差し向けていました。
曲自体も、さすがにライヴになると、ダイナミクスさが補完されるのか、名曲の続編にふさわしい出来でした。
(そういえば、Fractureってライヴレコーディングですもんね...)


11. Cage
FraKcturedが終わって、さすがに精根尽きたのか、フリップが半ば放心状態で指を伸ばしている間に、ローディがブリューにアクースティックのギターを持ってきて、Cageが始まります。
アクースティック・ギターにあわせてか、テンポが遅いのと、どうしても、ドラム+ベースが一組いないので、ちょっと変な感じがしますが、もはや別の曲、と考えたほうがいいのかもしれません。
歌詞を鑑みるに、I Have a Dreamへの前振りなのかなぁ、とも思ったり。


12. Larks' Tongues in Aspic Part IV
うーん、もはや何も言葉はありません。
フリップの盛り上がるパートが、一瞬FraKcturedのそれと同じのように聞こえましたが、微妙に違うんですね。似ているのは、私の耳が悪いのか、もともとFraKcturedの方がLTIAシリーズに編入される予定だったからでしょうか。


13. Coda: I Have a Dream
まぁ、コーダなんですが、アルバム版では音の方が全体を主導して、ブリューの歌がそれに乗っている、と印象を受けていたのですが、ライヴでは、ブリューの歌が曲を引っ張っている感じがしたため、やや音の流れの滑らかさに欠けている様な印象を受けてしまいました。個人的には、ちょっとそれが残念です。
まぁ、コーダなんですけども。


という具合に、本番が終了。
ほぼ全員でスタンディング・オヴェイションで喝采と拍手を繰り広げる観衆と私。
大きくてを振って、歓声にこたえる、エイド。
ドラム・ストゥールの脇で腰の前で小さくてを振るパット [なんか可愛い(笑)]
自分の位置で、前で手を組みながら突っ立つフリップとトレイ [やっぱり師弟だ]

大歓声の中、引き上げるメンバー。
会場のスタンディング・オヴェイションはまだまだつづき、ブリューが現れ、いっそう盛り上がったあと、みな着席して静まりました。
ブリューの一言。
「学生のころ、フランス語に必死だったのを思い出したよ」


Encore 1.
14. Three of a Perfect Pair
ブリューのソロによる、おなじみの曲です。
この曲、結構好きなんですけど、さすがに、アクースティックでのソロだと印象が違います。ただ、ブリューは (当たり前ですが) ちゃんとミニマムなフレーズを弾いていますし、歌もしっかり歌っています。ので、なかなかに良し。

普段フリップという御大がいるせいで、どうしても七色の音色とか陽気なキャラクターとか頭髪の具合とかに話が持っていかれる傾向も無きにしも非ずですが、さすがに上手いなぁ、と再認識できる曲です。

さらに、ちゃんと中間部のインスト・パートも略さず弾くのですが、ヂャッ・ヂャ・ヂャ というフレーズを一人で弾くのは、違和感があるというか、可笑しいらしく、客からも笑いが漏れましたが、本人もにやけながら弾いていました。

また、当然ながら、 AggrevatedとかComplicatedとかは客と掛け合いながらやっていまして、普通のポップ/ロックバンドっぽい感じでしたが、このあたりはやはりブリューの人柄が現れているんでしょうか。


15. Deception of the Thrush
ブリューが引っ込んですぐ、人の声のようなごにょごにょごにょというのが(←これがたしかTalkerですよね?>楽器に詳しい方) 聞こえてきて、フリップ・トレイ・パットの3人が現れ、演奏が始まりました。
演奏もなかなか良い出来で、深谷さんも日本ツアーでこれをやってくれるのが待ちどおしいんじゃないかなぁ、と思いつつ聞いていました。
心地よいです。


アンコール一回目終了。
大いなる崇敬の拍手でスタンディング・オヴェイションを繰り広げるオーディエンスと私。

パットのほうを向いて拍手をするフリップ。

観客のオヴェイションが続く中、すたすたと引き上げるフリップに習って引き上げるあとの二人。


Encore 2.
16. Vrooom
オヴェイションに答えてキング・クリムゾンが再登場。
おお、このイントロは、Vrooomではないか。
3列前にいた、Larks' Tongues in Aspic のアルバムのスウェットを着た兄ちゃんがガッツポーズ。さすがに人気のある曲です。
さすがに、弾きなれている曲だけあって、手堅い演奏でした。
確か、トレイはスティックに持ち替えていたと思います。
パットのドラムも良かったですね。


またもやスタンディング・オヴェイションな観客と私。

ひたすら陽気なエイド。
今度は前に出てきて腰の前で小さく手を振るパット。
しばらく突っ立っていたものの、ようやく右手を上げるトレイ。
そこそこ声援を静かに受け止めたあと、すたすた引き上げるフリップ。

それを見て、フリップを指差しながら引き上げる、あとの3人。


Encore 3.
17. Heroes
しばらくオヴェイションが続いた後、キング・クリムゾン再登場。
後ろから、'Heroes!'という声がかかり、Heroes を演奏。(たぶん、Bowieのでしょう。元ネタを知らんから、私は判断できませんでしたが。)
みんな大盛り上がりで、まさに会場はロック・スターのライヴ。
立ち上がって、大騒ぎでした。

曲自体はいうことは無いです。というか、わからなかったので。


曲が終わると、フリップは真っ先に、横の幕の後ろに立ってオーディエンスから身を隠すような感じに。
Bowieの有名曲をやったのが恥ずかしいのでしょうか(笑)

それを指差し、こっちへ来いよぉ、みたいな事を言ってそうなエイド。
結局、フリップはすたこらと引き上げたので、その分までよく観客に答えつつ、フリップを指差して引き上げる3人でした。

スタンディング・オヴェイションはまだまだ続いたものの、会場内のライトがつ
いて、公演終了。



というような感じでしたが、予想以上に会場は盛り上がり、キング・クリムゾンの健在振りとまだまだ続く進化への期待を抱かせ、ヨーロッパでの根強い人気を感じ取れました。

夜中にドーヴァーを渡っていった甲斐のある、ライヴでした。

一応、レポートは以上ですが、興奮して忘れているところもあるでしょうし、
思い出し次第、いろいろと追加して書いていきたいと思ってます。

というわけで、見苦しい長文で、失礼いたしました。


Kenichiro Oga


追記: 略名がわからんという意見が多かったので、その一覧です。

TCOL → The ConstruKction of Light
SSEDD → Sex Sleep Eat Drink Dream
TWMOSKFWM → The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museun
LTIA → Larks' Tongues in Aspic
P3/P4 → ProjeKct Three / Four ってこれはわかるとは思いますが。
あと、文中のエイドとはエイドリアン・ブリューのニックネームです。

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